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東京地方裁判所 平成4年(ワ)19508号 判決

原告

安田俊夫

右訴訟代理人弁護士

桜井健夫

被告

株式会社住友銀行

右代表者代表取締役

臼井孝之

右訴訟代理人弁護士

海老原元彦

広田寿徳

竹内洋

馬瀬隆之

右訴訟復代理人弁護士

田路至弘

被告

日本生命保険相互会社

右代表者代表取締役

伊藤助成

右訴訟代理人弁護士

篠崎正巳

米里秀也

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

(略称)以下においては、原告の長男安田弘正を「弘正」、原告の妻安田愛子を「愛子」、被告株式会社住友銀行を「被告銀行」、被告銀行の社員である菊地浩之を「菊地」、被告日本生命保険相互会社を「被告生命」、被告生命の外務員である小泉早苗を「小泉」、原告と被告生命との間で平成二年六月二八日に締結された二件の変額保険契約を「本件変額保険」、原告と被告銀行との間で平成二年六月一五日に締結された七〇〇〇万円の金銭消費貸借契約を「本件融資契約」、本件融資契約に基づく融資を「本件融資」、保険募集の取締に関する法律を「募取法」と略称する。

第一  請求

被告らは連帯して原告に対し一六五〇万円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告銀行から借り入れた資金で保険料を一括して支払うことにより被告生命と本件変額保険を締結した原告が、本件融資と一体となった本件変額保険はそれ自体欠陥商品であること、また、被告銀行及び被告生命の従業員から違法な勧誘を受けたため本件変額保険契約を締結したこと等の違法事由を主張し、そのため原告が損害(払込保険料と解約返戻金額との差額七六七万七四七七円、被告銀行からの借入金利六〇二万九四三六円、借入実費一六八万三〇四九円、弁護士費用一五〇万円の合計一六八八万九九六二円)を被ったとして、不法行為又は債務不履行に基づき、被告銀行及び被告生命に右損害の一部の賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実

原告は、大正一一年一〇月二八日生まれの男性であり、平成二年六月の本件変額保険締結当時六七歳であった。

菊地は、本件変額保険締結当時、被告銀行の従業員であり、小泉は被告生命の外務員であった。

被告銀行は、平成二年六月一五日、本件融資契約により、原告に対し七〇〇〇万円を貸し渡した(本件融資)。

原告と被告生命は、平成二年六月二八日(契約書上は七月一日付)、次のとおり、二件の変額保険契約を締結し、原告は、同日、左の保険料を被告生命に支払った(本件変額保険)。

1  被保険者 弘正(原告の長男)

保険期間    終身

基本保険金額 一億一五〇〇万円

保険料 三〇七〇万九六〇〇円

2  被保険者 弘正

保険期間    終身

基本保険金額 一億一〇〇〇万円

保険料 二九三七万四四〇〇円

原告は、平成三年六月七日、右二口の本件変額保険を解約し、被告生命は原告に対し、解約返戻金として五二四〇万六五二三円を支払った。

原告は、同日、被告銀行に対し、本件融資契約に基づく貸金債務(元本七〇〇〇万円及び平成二年六月一五日から平成三年六月七日までの利息)を弁済した。

二  争点

1  本件融資と一体となった本件変額保険は欠陥商品であって販売すること自体違法なものか。

2  本件変額保険を原告に販売したことが不適格者勧誘として違法なものか。

3  本件変額保険締結の際の菊地及び小泉の勧誘は、必要な説明をなさず、又は誤った説明をした違法な勧誘として不法行為又は債務不履行にあたるものであるか。

4  菊地が募取法九条違反の行為をしたか。それが不法行為となるか。

三  争点に関する当事者の主張

(原告)

被告らには次の1から5までの責任がある。

1 本件変額保険は本件融資と一体不可分なものとして考察されるべきものであり、その上で本件のように銀行借入で保険料を一括して払うことを前提にすると、家族型(被保険者を契約者の家族とするもの)の変額保険は相続税対策効果がある場合が極めて少なく、かつ、契約者が大きな損害を被る危険性(リスク)の高い欠陥商品である。したがって、このような欠陥商品を相続税対策商品として販売した被告銀行と被告生命には、債務不履行又は不法行為が成立する。

2 銀行借入による家族型の変額保険の販売が仮に許されるとしても、原告のようなそのリスクを正しく理解できない一般の高齢者に販売することは、不適格者に対する契約の勧誘として適合性の原則に違反し、債務不履行又は不法行為が成立する。

3 被告銀行と被告生命には、銀行借入による家族型の変額保険の締結に当たり、その仕組みとリスク、相続税対策の具体的内容について保険に加入しようとする者に分かりやすく説明する信義則上の義務がある。具体的には、金利や運用実績が一般的な数値で推移すると単に損をし続けることになること、損がどんどん拡大していき相続財産がなくなることもあるということまで説明しなければならない。本件でこの説明義務を尽くさなかった被告銀行と被告生命には債務不履行又は不法行為が成立する。

4 菊地及び小泉は原告に対し、本件変額保険について、被保険者が原告ではないのに、原告死亡時に相続税額と借入元利金の合計額に達する額が支払われ、相続税がなくなる旨の説明をした。これは誤った説明であり、被告銀行と被告生命には債務不履行又は不法行為が成立する。

5 菊地は、保険募集の資格を有さないにもかかわらず、本件変額保険の勧誘という募集行為を行った。これは、募取法九条に違反し、違法なもので不法行為が成立するから、被告銀行は使用者として責任を負う。

(被告銀行及び被告生命)

いずれも否認する。

第三  争点に対する判断

一  (変額保険の内容、発売の経緯等)

甲五、一八、二一、二五から二七まで、三一、丙六、八及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

変額保険は、我が国においては、昭和六一年七月に大蔵省により認可され、同年一〇月から発売が開始されたものであり、保険会社が保険契約者から払い込まれる保険料中、一般勘定に繰り入れる部分を除いた積立金を特別勘定として独立に管理し主に株式や債券などの有価証券に投資し、その運用成果に応じて保険金額及び解約返戻金額が変動する仕組みの生命保険である。従来の定額保険においては安全性重視の運用を行い、一定額の保険金額、解約返戻金額が保証されており、資産運用の変動によるリスクを保険会社が負っているのに対し、変額保険は特別勘定の運用実績により高い収益が期待できる反面、株価や為替などの変動によるリスクを加入者が負うことが特徴である。但し、死亡・高度障害保険金額については、最低保証が設けられており、基本保険金額と呼ばれている(本件においては第二の一で認定したとおり、保険料の三倍以上の金額が基本保険金額とされている。)。

変額保険は、本来、インフレによる保険金額の実質的目減りを避けることができる点に利点があるが、我が国においては、いわゆるバブル経済期に株価等が急騰したことを背景にその高収益性(利殖商品としての機能)が重視され、さらに不動産の価格が急騰したことなどから、保険料の一括払込について銀行融資を受けて変額保険に加入することにより土地所有者の相続税対策(相続税支払資金の捻出、債務負担により相続財産の評価を下げることによる節税等)になることを目的として契約する例も多くみられた。なお、変額保険では、契約者本人が被保険者となる本人型と契約者の家族が被保険者となる家族型が多く見られるが、契約者が高齢の場合に自ら被保険者となることを希望したが、保険会社の診査に合格せず又はその契約基準に合致せずに、家族を被保険者にすることにして変額保険の契約を結ぶという例もあった(本件も後記認定のとおり、その一例である。)。

二  (本件の契約に至る経緯)

甲一六、一七、三五、三七、乙一、丙一、二、四、五、七、八、証人小泉、同菊地及び原告本人によると以下の1から5までの事実を認めることができる。

1  原告は、平成二年四月一七日、テレビ朝日の「こんにちは二時」という番組を見ていたところ、同番組は土地所有者の相続税対策として土地を担保とした銀行借入による変額保険加入が有効であることを紹介していた。原告は地価の高騰により相続税につき不安を抱いていたことから、自分にも有効な方法と思い込み、以前から付き合いのあった被告銀行の西葛西支店の菊地に早速電話をして、相続税対策として銀行借入による変額保険に加入できるのかどうかを尋ねた。菊地は原告を訪ね、保険料一括払いの生命保険に加入すれば死亡時に死亡保険金が下りて借入金の返済とともに相続税支払の対策となる旨の一般論を説明し、その後原告にも変額保険加入のための銀行融資ができることを報告した。

2  同年五月八日、菊地は、被告銀行西葛西支店に生命保険の勧誘のため出入りしていた被告生命の江戸川支社西葛西支部の小泉を連れて原告の勤務先のビルの管理人室を訪ね、小泉を原告に紹介した。その際、小泉は被保険者を原告とした変額保険の設計書(丙一、丙二と同一形式のもの)及びパンフレット(丙八と同内容のもの)を持参し、これらを原告に見せて、払い込み保険料を株などで運用すること、運用の仕方によって死亡保険金及び解約返戻金が増減すること、基本保険金は保証されることなどを説明した。原告は、説明を聞いて、特に保険内容等について質問することなく、その場で申込書に署名・押印をした。

3  同月一四日、医師による原告の保険加入のための診査が行われた。その結果、原告は高血圧のため被保険者になれないことが判明し、小泉はこの旨を同月一六日に原告に、また同じころ菊地にも知らせた。

4  そこで、小泉は被保険者を原告の妻の愛子にした変額保険の設計書と被保険者を原告の長男の弘正にした変額保険の設計書(丙二と同じ内容のもの)を作成し、原告に対し、被保険者を愛子及び弘正に変更したうえで変額保険契約を結ぶことを勧誘した。その際、小泉は原告に対し、被保険者が変わるので原告に相続が発生しても保険金は下りないが、家族型の場合にも節税効果はあり、また、変額保険の運用実績が良い場合には中途解約して一部納税資金にすることもできる旨を説明した。同じころ、小泉は菊地に対して、被保険者が原告の妻及び長男の場合でも被告銀行は原告に融資が可能かを照会し、これに対し、菊地は原告が了承すれば問題ないとの見解を示した。

5  同月一七日、小泉は愛子に会い、申込書の被保険者欄に記入をしてもらい、同月一八日、愛子は健康診断を受けた。同日、小泉は弘正をその勤務先に訪ね、保険の設計書を示して変額保険の説明を一通りしたうえ、被保険者欄に記入をしてもらった。

一方、同月二一日、診査の結果、愛子は被保険者になれないことが判明し、小泉は原告に被保険者を弘正としてもう一口加入することを勧め、原告はその勧めに従い、同月二三日、弘正は二口分の保険について診査を受けた。

6  原告本人及び証人弘正の供述、甲三五、甲三六には右1から5までの認定に反する部分があるがこれらはいずれも前掲各証拠に照らし採用することができない。

三  (原告の主張する被告らの責任原因1から5までについての判断)

1  (欠陥商品の主張について)

原告は本件変額保険と本件融資は一体不可分のものとして考察されるべきであると主張する。原告と被告生命との間で結ばれた生命保険契約及び原告と被告銀行との間で結ばれた消費貸借契約は互いに当事者、目的を別異にするものであるが、原告の主張は、本件の事実関係の下では両者は社会経済上、一体不可分のものとして考察すべきであると主張するものであろう。

しかしながら、本件変額保険の保険料が本件融資による金員でまかなわれたことは前記認定のとおりであるが、そのことから直ちに両者を社会経済上一体不可分として考察すべきであるということはできない。したがって原告の主張はこの点でその前提を欠くものであるが、さらに本件融資と組み合わせた家族型の変額保険が相続税対策として欠陥商品であるとの主張について付言すると、特定の資産運用の方針が相続税対策として効果があるかどうかは、相続の時期、被相続人の資産の内容、家族構成、将来における不動産価格、有価証券価格及び金利等の動向、相続税制のあり方等の諸要因によって変わってくるものである。銀行融資による保険料一括払いと組み合わされた家族型変額保険の相続税対策としての有効性自体、平成二年六月当時においていずれとも断定できないものであったというべきであり、従ってそれが欠陥商品であり、その販売自体が違法であるとする原告の主張は採用できない。

2  (適合性の原則違反との主張について)

原告本人、甲七から一五まで、三二、三四、三五によると、原告は昭和一八年三月帝国商業を卒業後、昭和二三年以来同五七年までは聖路加病院、東都建物有限会社、杉本貿易株式会社のいずれも総務部門に勤務した経験を有し、昭和五七年からは河商住宅サービス株式会社に勤務してマンションの管理人の業務を行っていたこと、原告は昭和二八年と同四三年に東京都葛飾区新小岩二丁目と四丁目に合計約五七〇平方メートルの土地を入手し、同四七年から六二年にかけて自宅及びアパート(合計一四室)を建築し所有していたこと、平成二年当時の評価で資産の評価額が約五億円あったと推定されること、原告は毎年の税務申告には税理士ではないが税務に詳しい久世という知人にその手続きを依頼して節税を図っていたことを認めることができる。これらの事実からすると、原告は一代で相当の資産を自ら築き上げた才覚ある人物と評価することができ、かつ、身近に税金対策について相談できる知人を有していたといえる。この事実と平成二年当時原告はマンション管理人として勤務を続けていたことを考え合わせると、平成二年当時六七才という年齢に達していたとしても、原告がリスクを正しく理解できない一般の高齢者であるとして原告に本件変額保険を販売することが適合性の原則に反するものであるという原告の主張は到底採用しえないことは明らかである。

3  (説明義務違反の主張について)

生命保険の募集は募取法の規制を受けるが、同法は、「募集文書図画に将来における利益の配当又は剰余金の分配についての予想に関する事項を記載してはならない。」と規定し(一五条二項)、また、「保険契約者又は被保険者に対して、不実のことを告げ、若しくは保険契約の契約条項の一部につき比較した事項を告げ、又は保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為」、「保険契約者又は被保険者に対して特別の利益の提供を約し、又は保険料の割引、割戻その他特別の利益を提供する行為」を禁止している(一六条一項一号、四号)。そして右に掲げた禁止に対する違反行為に対しては業務停止、登録取消等の行政処分をすることができると定める(二〇条一項)ほか、違反者に対して一年以下の懲役又は一万円以下の罰金刑を定めている(二二条一項)。募取法は「生命保険募集人……の登録をなし、……募集を取り締り、もって保険契約者の利益を保護し、あわせて保険事業の健全な発達に資することを目的とする」もので(一条)、保険業者に対する取締法規の性格を有するものであるが、前記の禁止事項を定めた規定はいずれもその内容から直接保険契約者の利益を保護することをも目的としたものであることは明らかであるといえよう。ところで変額保険は一で認定したとおり我が国において昭和六一年一〇月に初めて発売されたものであり、かつ、従来の定額保険とは異なり、資産運用の変動によるリスクを加入者が負う保険であることから、昭和六一年七月一〇日付で大蔵省の通達(銀行局一九三三号)による行政指導がなされ、①将来の運用成績についての断定的判断の提供、②特別勘定の運用実績について、募集人が恣意的に過去の特定期間をとりあげ、それによって将来を予測する行為、③保険金額(死亡保険金の場合には最低保証を上回る金額)あるいは解約返戻金額を保証する行為を禁止行為として特に掲げている(甲三一)。また、生命保険業界でも、募集の際に、保険金額の増減と基本保険金額の関係、解約返戻金額及び満期保険金額に最低保証がないこと等について顧客の確認を求め、また、特別勘定の運用実績が〇パーセント、4.5パーセント、九パーセントの場合についての保険金額の試算例を示すことを業界の自主規制として申し合わせている(甲三一)。

一で認定した変額保険の内容、特質及び右に述べたところから、変額保険募集の際の生命保険募集人の加入者に対する説明義務の内容について検討する。募取法自体は取締法規であり、その違反が直ちに私法上の無効あるいは債務不履行、不法行為の違法との評価に結び付くものではないし、まして、大蔵省の通達あるいは業界の自主規制についてそれに違反することが直ちに違法との評価を受けることがないことは言うまでもないところである。しかしながら、募取法一五条二項、一六条一項一号、四号の趣旨が前述したように保険契約者の利益の保護をも直接の目的としていると解せられること、従来、我が国においては生命保険としては定額保険のみが存在しており、従って国民も生命保険が安全性のある商品であるということに信頼をおいてきたこと、それゆえにこそ変額保険の販売開始に際して前記のような大蔵省の行政指導及び保険業界の自主規制が行われたという事実を考え合わせると、変額保険を募集する生命保険募集人は変額保険の契約に加入しようとする者に対して、資産の運用の結果により保険金額、解約返戻金額が変動するものであり、終身保険の場合の基本保険金額を除いては最低保証されているものはないという変額保険の本質的要素を説明する法的義務が信義則上要求されており、これに違反してなした募集行為は、当該変額保険契約の結ばれた経緯、保険契約者の職業、年齢、財産状態、知識経験等の具体的状況の如何にもよるところであるが、原則として、私法上も違法の評価を受けるというべきである。本件においては、前記二の2で認定したところによると、生命保険募集人である小泉は保険契約者である原告及び被保険者である弘正に対して本件変額保険の概要の記載がある設計書やパンフレットを交付したうえ口頭でも変額保険の内容を説明しているところであり、右の書面及び口頭の説明は前記の変額保険の本質的要素の説明を含んでいるから、小泉は被告生命の募集人として前記の説明義務を尽しているということができる(この場合、被告銀行について説明義務を重ねて要求する必要がないことはいうまでもない。)。なお、原告は、被保険者を契約者の家族とする家族型の変額保険の締結にあたっては、被告銀行と被告生命は相続税対策の具体的内容について原告に分かりやすく説明する信義則上の義務があると主張する。しかしながら、ある特定の手段を取ることが特定人にとって相続税対策になるかどうかの正確な判断は、その者の資産の詳細、家族構成について把握した上、税務に関する正確な知識に基づいて初めてなしうる専門的判断であり、しかも、真に相続税対策として有効であったか否かは、その後の不動産評価の推移(これは不動産価格の動向と税評価の政策の変化の両面にかかわるものである。)、金利の動向、本件の場合でいえば変額保険の特別勘定の運用実績等のいずれも容易に予測しがたい事項にもかかるものである。自らの相続税対策をどう立てて行くかは自らの責任において(税理士等に相談し、あるいは各種の税務相談を利用すること等を含めて)調査、判断すべきものである。本件の場合、原告は被告銀行あるいは被告生命との間で自己の資産運用についての助言、企画を依頼する委任契約を結んでいたわけではない。以上の点からいうと、本件の場合、原告の主張するような説明義務は認められないというほかはない。(なお被告銀行又は被告生命が相続への対処について虚偽の説明あるいは明白に誤った説明をして原告に損害を与えたという場合には単なる説明義務違反を超えた問題が生ずるが、本件ではそのような事実を認めることはできない。)

4  (原告の主張4について)

原告は、菊地及び小泉が原告に対して本件変額保険に加入することにより原告死亡時に相続税がなくなる旨の誤った説明をしたと主張する。

しかし、二の4で認定したとおり、小泉は被保険者が原告本人から原告の家族に変更することになった際に、原告死亡時に死亡保険金はおりない旨原告に説明していたのであって、原告主張の右事実は認められない(なお、原告は家族型でも原告が死亡すれば死亡保険金が下りると説明されたと述べるが、このような基本的な説明の誤りを小泉がするとは考えられず、原告の右供述は到底信用できない。)。

5  (募取法九条違反の主張について)

募取法九条(登録された生命保険募集人以外の者による募集の禁止)は、保険事業の健全な運営を目的とする取締法規であって、その違反それ自体が私法上直ちに違法とされ不法行為となることはない。従ってこの点についての原告の主張は失当である。

四  以上のとおり、原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官菅原雄二 裁判官佐藤真弘 裁判官朝倉佳秀)

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